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2019年9月26日

                                   茂呂英雄 

種子島、屋久島巡検雑感

 8月下旬の種子島、屋久島は天気も良く、素晴らしい自然の景色を見せてくれた。

種子島の千座の洞窟では、洞窟そのものの大きさに感動するとともに、洞窟に至るまでの広大な浜田海水浴場の白さと、青い大海原のダイナミックさに感動した。こうした自然はこれからも多くの人に感動を与え、人々に癒しを与えてくれることと思えた。

 一方、もっと大きな感動を与えるためには、すぐにでもできる改善点が見え隠れした。浜辺に打ち上げられたプラスチックごみの処理である。世界各地から漂流したプラごみが、潮の引いた後に残されたままであった。プラごみの問題は最近特に注目されている。自然の美しさが大きな魅力である種子島にとって、浜辺のプラごみは大きなマイナスであると思う。

 観光客あるいは浜辺の管理者が、少しずつでも浜辺の掃除をすることで、大事な自然を守る意識が生まれ、より魅力的な白浜になるのではないだろうか。そのための財源としては、“入浜料”を取ることも考えてよいと思う。富士山でも入山料を取り始めた。

さらに、膨大なごみの処理の為には多くの財源を投入し、円滑な収集、運搬、処理の仕組みの構築が不可欠である。今回は、そこまでの詳しい調査はできなかったが、貴重で魅力的な自然を人の為に活かすには、ごみの処理やリサイクルの徹底は大きな課題である。

風力発電施設を見学した。しかし、耐用年数が過ぎ、実際には発電していないとのこと。今後の施設維持、撤去費用はどうするのだろうか?中種子町では、農協を通らない農作物の出荷量は把握していないとのことであった。身近な生産、販売状況が分からない状況で戦略的な行政運営ができるのであろうか?

 翌日は屋久島を訪ねた。世界遺産に指定されていることもあり、特にウミガメが産卵する浜はきれいに清掃され、満ち潮が運ぶごみも残されていなかった。自然環境をさらによりよく守っていくためには、“入島税”などにより財源を確保した上で、ダイナミックな自然を提供していく発想が必要である。

 財源確保のためには、きれいで、量も多い自然水の活用も考えられる。東京では100円で売られているペットボトルの水が屋久島、種子島では130円であった。東京の資本に負けず、地元の恵みを活用して利益を生むような産業政策が求められる。

 トロッコの活用には賛否両論があると聞いた。ダイナミックな自然の中を疾走するトロッコは、遊園地のアトラクションでは味わえないリアルな緊張感と先人たちの思いを感じることができるものになる。もちろん、安全の確保や世界遺産に指定されたこととの関係は十分に考慮しなければならない。どこまで何ができるのか、数少ない自然環境とついこの間までそこにあった人間の生活を感じることのできる施設の整備は、やってみる価値があると思える。

 両島を巡検して、今の日本人にとって貴重になっている広大な自然があるのに、それを活用した産業の育成や自立した財政の取り組みが弱いのではないか、と思う。

 総務省発表の平成29年度決算カードをみると、両島のどの自治体も歳入では地方交付税が5割近くを占め、歳出は人件費が3割を占めている。自主財源が少なく、支出は硬直化している状況と言える。持続的に自主的な自治体運営を図っていくためには、自主財源を増やすための産業を興し、そのためには産業振興の為に経費を当てていく必要がある。

 東京大学との交流も継続的に行われているようであるが、持続的、自律的自治体運営を目指して協力関係を築いていくことを期待する。

以上

※会員各自の専門分野からの研究会報告を随時掲載していきます※

第1回報告「埼玉における物流施設の立地と最近の特徴」

 第1回目の研究会は、内海会長から「埼玉における物流施設の立地と最近の特徴」

について報告をしていただきました。(2019年1月19日)

 圏央道開通以降、インターチェンジ周辺に大規模な物流施設が次々と建設されてきた状況について、物流(ロジスティクス)という流通形態の変化と立地特性(輸送コスト抑制と平坦な広い土地の確保)の両面から説明をいただきました。

 さらに、最近では、アマゾンのフルフィルメントセンターのような、注文から梱包・配送まで一括して効率的に行うことができる、施設の自動化・大型化が図られているのも大きな特徴だという点、大きく変化していく物流業界の今後についても注目していきたいと思います。

※報告資料は  こちら👆「埼玉における物流施設の立地と最近の特徴」

第2回報告「原発集団訴訟とふるさとの価値」

 第2回目の報告は、山川顧問から「原発集団訴訟とふるさとの価値」というテーマで報告をいただきました。(2019年4月18日)

 東日本大震災原発災害では、今なお、4.9万人(2018年3月)の福島県民が県内外で避難生活を強いられています。原発災害の被害者は、放射能汚染された居住地に相当期間戻れず、その汚染度の違いによって、帰還・復旧・復興への道筋はさらに一層複雑化し、極めて困難な状況に置かれています。

 報告では、被災当初から最近の避難指示解除に至る、被災者に降りかかる幾重もの累積的被害を「ふくしま復興ジレンマ」として捉え、発災後8年間の「人」「生業(なりわい)」「地域」の各側面の様々なデータから分析をしていただきました。

 その中では、長期避難によって、家族やコミュニティが分断され、地域再生どころか地域空白の危機がつきつけられていること。国や県による除染や様々なインフラ等の整備が一定程度進みつつも、なお帰還の足取りは重く、避難者はまだ居住地の選択に迷っている実態が明らかになりました。

 また、東電の責任を認める各地の民事集団訴訟判決が出される中、それらの判決に影響及ぼした前橋判決では、ふるさと喪失などを核とする平穏生活権を侵害したとする賠償命令がなされ、避難者の生活再建や被災地の再生に関する制度設計の在り方に影響を与えるものとして注目されていることが分かりました。

 今後は、こうした被害累積性という深刻な事態を念頭に置いた被災地の再建に政府が全責任を持つ生活再建策を講じるとともに、生活拠点の二重性を当面保証する制度の構築が必要であるということ。さらには、福島県復興ビジョンの第1原則として掲げる「原発に依存しない社会」の実現が不可欠であると展望していただきました。

 山川顧問から提起された課題を契機として、ふるさとそのものを喪失した被災者の気持ち、被災地域の困難性、原発問題の複雑性に私たちがどう関わり、何ができるのかを考えていきたいと思います。

 今年予定している福島巡検はそのための一つの機会になれば良いかと思います。

※報告資料は  こちら👆「原発集団訴訟とふるさとの価値」

 参考資料は以下のとおり クリックしていただければ資料にリンクしています。

➀ 山川充夫 「強制避難者の自主避難化を避けるために」(学術の動向 2017年4月)

② 山川充夫 「東日本大震災と社会経済復興パラダイム」(経済地理学年報 2018年 第64巻)

③ 山川充夫 「福島県商業まちづくりと東日本大震災」(経済地理学年報 2016年 第62巻)

リンクはありませんが

④ 山川充夫 「原発集団訴訟と日本学術会議提言ー前橋判決における避難継続の合理性の検討ー」(判例時報 2018年11月21日号)


地誌東京研究会会報