第19回「馬毛島自衛隊基地建設と種子島」(廣瀬丈久)

第19回目の報告は、廣瀬から「馬毛島自衛隊基地建設と種子島」と題して、報告を行いました。(2024年3月)

 皆さんは馬毛島がどこにあるかご存じでしょうか。南西諸島の種子島から西に12キロ、本土最南端の大隅半島佐多岬から南南東に34キロの鹿児島県西之表市にあります。今、日本で2番目に大きい無人島の馬毛島に、自衛隊と米軍(FCLP訓練施設)の共同軍事拠点ができようとしています。

 この研究会では、2019年に種子島・屋久島巡検を実施しましたが、馬毛島の自衛隊基地建設計画が表面化する前だったこともあり、大きくとりあげることはありませんでした。

 馬毛島の自衛隊基地問題については、地元メディアは別として、最近まで在京メディアや国会で取り上げられることは少なく、関心はとりわけ低かったと思います。

 今回の報告にあたって、基地建設の現状と問題点を把握するためには、何故馬毛島は無人島になったのか、どうして一企業がほぼ馬毛島全島の地権者となったのかを調べる必要がありました。過去の文献やネット上には、様々な馬毛島の開発にかかわる断片的な情報はありましたが、体系的な参考文献は少なく、別添のように、馬毛島の開発に係る歴史を主体別に整理した年表(👉クリックすると年表にリンク)をまず作成していきました。

馬毛島は、戦後復員者を受け入れるとともに食料増産のための農業開拓団が入植し、一時人口は500人を超え、小中学校も建設されました。確かに宝の島と言える豊かな海に囲まれ、漁の季節には島に漁労小屋が立つなどの賑わいはありましたが、島の生活は厳しく、畜産・農業は定着せず、無人化への道をたどりました。

その後は、一民間企業が島におけるレジャー施設建設を当て込み、土地の買収を進め、地元の県や市もからみながら、様々な開発構想が生まれては消えていきました。その過程で、馬毛島は無人島にそして地権者は一企業に収束していきました。

今は基地建設が進む馬毛島ですが、戦後から幾度となく、重機によって表土や森林はぎ取られ、その土砂によって海岸環境は汚染されてきました。こうした一連の開発行為によって傷つけられ、無人島化する中で種子島の島民にも忘れ去られた存在となっていったようです。ところが、突如として日米の共同軍事拠点計画が明らかになり、基地建設は島民の手の届かない所で意思決定され、着工1年が経とうとしています。本年初めには、3千人を超える作業員が馬毛島と種子島に押し寄せ、種子島の市民生活にも多大な影響を及ぼそうとしています。

 島には無人島であったが故に残された豊かな自然や埋蔵文化財、戦争遺産があります。私たちの先輩である初見祐一さん(当時都立大学大学院生)の地質調査がきっかけで発見された、馬毛島の椎の木遺跡は弥生時代後期の埋葬跡で多数の人骨や埋葬品が出土しています。また、沿岸には貴重な珊瑚やトコブシなどが生息し、無人の森や草原には固有種のマゲシカが暮らしています。

 今回の基地建設のために行われた環境アセスメントには、東岸の護岸工事や周回道路は対象にはなっていません。このため、かろうじて残されていた自然海岸やマゲシカの生育場所である森林も根こそぎ破壊されつつあります。以上が時代の波に翻弄されてきた馬毛島の略史です。

 さて、年表作成から見えてきた論点を整理したのが以下の項目と本文です。⇒は本文の記述箇所です。

① 馬毛島開発の乱開発により種子島の主産業の一つである水産業は大きなダメージを受けた。漁協や一部漁業者は、基地建設による補償金、海上タクシー等の安定収入に期待                                              ⇒本文 2

② 行政のミスリードと不作為によりふるさとの価値喪失を招いた。開発業者の暴走を抑えられず、結果として自衛隊基地建設の道を開くことに  ⇒本文 4

③ 漁民等による開発抑止を求めた裁判では、その悉くに政府に忖度した司法判断 ⇒本文 4

④ わずか12キロ先で行われていることが種子島の住民に知らされない。地元軽視、合意形成なく進められる馬毛島開発・自衛隊基地建設の実態 ⇒本文 5

⑤ 反対する地権者がほぼゼロの馬毛島は、土地買収に苦労する国にとって好都合 ⇒本文 5

⑥ 人口減少と高齢化に苦悩する離島自治体。基地経済に依存しなくてすむ地域経済の自立が理想だが                     ⇒本文 6

 「基地経済に依存しない町づくりを推進することにこそ持続可能な社会への希望がある」というすばらしい公約を掲げて当選した現市長も、最近では基地への賛否を示すことなく、基地建設に係る再編交付金を事業化し、馬毛島内の市有地を売却するなど、事実上基地建設前提の市政運営に変わってきています。

 丁寧に説明するという最近の政府の常套句ですが、防衛省からはFCLPの飛行経路やマゲシカの現状などの重要項目の回答は今もありません。鹿児島県と市2町(西之表市、中種子町、南種子町)との課題整理のための協議会も結成されず、とりまとめ役不在のまま、国主導の基地建設が着々と進んでいる状況です。

 今回の報告は、自衛隊基地建設を目前にして、私たちは何を思い、どう行動するべきかを考える良いきっかけとなりました。沖縄をはじめとして、南西諸島の最西端の与那国島から最北端の馬毛島・種子島に至るまで、日米の共同軍事ラインが整備されることになります。そうなれば、有事の際の攻撃目標となるリスクは、南西諸島ばかりでなく、日本全土に及ぶものと考えなければならないと思います。

 遠い馬毛島のことと無関心ではいられません。他人事ではなく、自分事として今起きていること、これから起きるだろうことをしっかり分析・判断していくことが重要だと改めて思いました。

 この夏には、種子島の水田の稲刈りの手伝いに向かいます。種子島・馬毛島の近況をお知らせしていきたいと思います。

報告資料はこの👉「馬毛島自衛隊基地建設と種子島」をクリックしてご覧ください。

地誌東京研究会

本会は、地理及び地誌に関心を持つ会員の交流を図るとともに、 対象とする地域の調査・分析を通じて、 地域の課題解決に向けた取組や持続可能な将来像について 記録・研究することを目的としています。

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